ネットでリアルなファンを獲得― アトランタの新鋭ラッパー・Russ

突然ですが、「アトランタ」と聞いた時に、まず何を思い浮かべますか?「アトランタオリンピック」といったフレーズが真っ先に浮かんできたかもしれません。ですが、熱心な音楽ファンの中には、まったく別の言葉が脳裏をよぎった人もいるでしょう。そう、例えば「ヒップホップ」。

アメリカ南部の中心都市・アトランタは、数多くのラッパーやプロデューサーを輩出している、言わば「ヒップホップのメッカ」。アウトキャスト、アッシャー、T.I.といったメインストリームの大御所や、ヒップホップとエレクトロニカを融合させ音楽シーンに衝撃を与えたプレフューズ73など、名前をあげれば枚挙にいとまがありません。

そんな音楽的に豊かな土壌をもつアトランタに拠点を置き、スターダムへの階段を着実に駆け上っている1人のラッパー/プロデューサーがいます。今年で25歳を迎えるRuss(ラス)がその人です。

ラスが音楽制作を始めたのは14歳のころ。それから10年の歳月が過ぎた昨年、シングル「What They Want」がアメリカで最も権威のある音楽チャート『ビルボードHot100』にランクイン。その後本作は、50万枚以上のセールスを記録した作品に贈られるゴールドディスク*1を獲得し、ラスの代名詞といえる1曲になりました。

名門『コロムビア・レコード』からのファーストシングルでもある「What They Want」のヒットによって、アーティストとしての成功をつかみ取ったラス。しかし、何よりも注目すべきことは、このヒットナンバーが生まれるまでのストーリーにあります。その最大のポイントは、インターネット上での地道な活動を経て、リアルなファンを獲得してきたことです。

ラスを支える確固たるファンベース

ラスにとって重要なツールとなったのが、SoundCloudです。音楽配信プラットフォームの定番として、アーティスト・音楽ファンの間ではすでにおなじみのこのツール。ラスの成功の原動力は、SoundCloudで行ってきたコンスタントな楽曲公開にあります。

どのくらいのコンスタントさかというと、週に1曲のペースで楽曲をアップしていた時期もあったほど。ハイペースな楽曲制作・楽曲公開を繰り返すことで、ラスは音楽リスナーとの結びつきを強め、一過性の流行やバズでは得られない、確かなファンを獲得することに成功したのです。

ラスはビルボードのインタビューの中で「What They Wantだけじゃないんだ」と語っています。彼はまだ20代ですが、すでにベテラン顔負けの豊富なディスコグラフィを抱えており、それは彼が設立したレーベル『DIEMON』のWebサイトを見れば一目瞭然です。

サイトを開くとまず目に飛び込んでくるのは、綺麗に並べられたアートワークの数々。このサイトにアップされているラスの作品は、現時点でアルバムが12枚、シングルにおいては98曲(!)に及びます。

これまでに発表した作品=ディスコグラフィをギャラリーのような雰囲気で丁寧にアーカイブ化している『DIEMON』のWebサイトからは、”自分の音楽をリスナーに届けたい・聴いてもらいたい”という想いが伝わってきます。

しかしながら、どんなにセルフプロデュースに長けていようが、プロモーションが上手かろうが、音楽自体に魅力がなければ本末転倒。ラスが生み出す音楽はヒップホップがベースになっているものの、メロディアスで実に個性的です。

 

ラップだけではなく、曲によってはヴォーカル(歌)のメロディをしっかりと聴かせるなど、型にはまらない作風がラスの持ち味になっています。この点は、ヒップホップ・ファンのみならず、幅広い層の音楽ファンに受け入れられる重要なファクターと言えそうです。

すべては音楽に対する情熱の結果

インターネットを有効活用しながら、自分の音楽をリスナーに届けるべく地道で細やかな活動を続けてきたこと。その結果として、インターネット上で確固たるファンベース― リアルなファンを獲得できたこと。これこそが、「What They Want」のヒットにつながっています。

音楽に対する情熱を的確にアウトプットしてきたラスの活動には、ものづくりを行う上での重要なヒントが隠されているように思えるのは、私だけでしょうか?

経済誌フォーブスによる『6 Hip-Hop Artists To Look Out For In 2017(2017年に注目すべきヒップホップ・アーティスト6人)』に選出されるなど、注目度がうなぎ上りのラス。今後の動向から目が離せません。

*1:アメリカレコード協会(RIAA)が認定する音楽賞。セールス数にはCD・レコードの売り上げ枚数のほか、Apple Music・SpotifyYouTube等での再生回数も加算。